今回は、サービス残業の残業代請求に係る裁判例を紹介しています(つづき)。
4 争点3について
(1)被告は、原告に対し、原告の意思に基づいて上記主張に係る休日の振替を行ったもので、同振替に係る休日が労働日になるため、休日手当を支払う義務がない旨主張する。確かに、上記認定したとおり被告の従業員就業規則には、休日の振替について「社員は休日を上長の許可を得て変更することができる。又、休日が取得できなかった場合、3ケ月繰り越すことができる。」と規定され、また、本件裁量労働協定で「裁量労働に従事する社員は所属長の命令又は承認を得ずに休日勤務又は深夜労働(残業)をおこなってはならない。」と規定されている。ところで、被告においては上記認定したとおりの特定の日をもって休日とし、被告の従業員も同特定の日を休日と認識しているところ、仮に、休日(労働義務のない日)の振替がなされれば、当該休日であった日は所定労働日と同様の取扱いを受けることになることからすると、それが認められるためには〔1〕就業規則に休日の振替に関する定めがなされていること、〔2〕所定休日が到来する前に振り替えるべき日を特定して振替手続が行われること、〔3〕休日振替によっても、4週4日の休日(労基法35条2項)が確保されていることが必要であると解するのが相当である。
(2)そこで、本件であるが、被告が上記第2の3(3)記載のとおり休日を振替た旨の主張は本件全証拠によるも当該休日以前に被告主張のとおりの休日振替がなされたと認めることができず、かえって、弁論の全趣旨によれば、同主張に係る休日について事前に振替がなされていなかったことが認められる。
そうすると、被告の上記主張は理由がない。
(3)したがって、被告は、上記主張する休日部分について、原告に対して休日労働に対する割増賃金(残業代)支払の義務を負うというべきであるところ、原告に対して休日分として割増賃金(残業代)支払義務を負う賃金は以下のとおりである。
ア 平成16年4月(3、4日分) 3万2283円
1377円×1042分(内訳960分(16時間〔時間内〕)+82分(1時間22分〔時間外〕)×1.35÷60=3万2283円
イ 平成16年5月(1ないし4日分、8、9日分、15、16日分) 13万7841円
1377円×4449分(内訳3840分(64時間〔時間内〕)+609分(10時間9分〔時間外〕)×1.35÷60=13万7841円
ウ 上記アとイの合計額 17万0124円
5 争点5について
(1)労基法による賃金(但し、退職手当は除く。)債権は2年間行わない場合には時効によって消滅する(労基法115条)。
(2)被告は、本件訴訟が平成17年12月19日に提起されたため、平成18年2月20日に原告に送達された被告の第1準備書面をもって平成15年9月分から同年11月分までの賃金債権について、時効により消滅した旨の主張をする。
被告が同時効を援用する旨の意思表示をしたことは当裁判所に顕著な事実である。
ところで、原告は、賃金債権の消滅時効の起算日は労働者の退職日とすべきである旨主張して、被告主張に係る上記賃金債権について、本件訴えの提起時には2年の消滅時効期間が経過していない旨主張する。しかし、同法115条の規定は特に制限を設けることなくその消滅時効期間を2年と規定していることからすると、原告の同主張は直ちに採用できない。
そうすると、原告主張に係る平成15年9月分から同年11月分までの賃金債権は時間外、深夜の割増分、休日勤務による割増分も含めて時効により消滅しているといわなければならない。
6 争点6について
(1)原告は、被告が労基法に反し、労働基準監督署への届出をすることなく、違法に、原告に裁量労働制が適用されるとして法定外時間労働を強いてきたことによって精神的苦痛を被ったと主張して、慰謝料60万円の支払を求める。確かに、被告が主張する専門型裁量労働制は原告に適用がないことは上記説示したとおりである。
(2)しかし、上記第3の1(2)(3)で認定したとおり被告は、本社において労働者の過半数の代表者との間で専門型裁量労働制に係る労使協定を締結し、それに対応する労働基準監督署に届出ているうえ、原告との間でもその契約社員としての雇用契約のみならず正社員としての雇用契約においても明示的に専門型裁量労働制に係る雇用契約を締結し、原告もそれを了解していたこと、それに原告に対して専門型裁量労働制が適用されないことで上記のとおり時間外、深夜の割増賃金(残業代)が支払われることからすると、被告が原告に裁量労働制が適用されるとして対応してきたことについて、不法行為とまで認めなければならない程度の違法性はなく、また、同割増賃金(残業代)が支払われることで原告が主張するような慰謝料まで支払わなければならない損害があったとまで認めることもできない。
そうすると、原告の上記主張は理由がない。
7 原告は、時間外労働(残業)などに係る未払の賃金額に相当する付加金の支払いを求めるところ、被告の上記認定説示した専門型裁量労働制に対する対応(本件裁量労働協定の締結、その届出)、原告との間のそれに関する合意、それが原告に適応されないことによる賃金未払の経過、その金額などを踏まえると未払額62万4428円(上記3、4で認定し説示した額の合計額)の50%に相当する31万2214円について、付加金としての支払を命じるのが相当である。
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