このブログでは、企業の顧問弁護士をしている者の立場から、日々接している法律問題のうち、一般的な情報として役に立ちそうなものをメモしています。ジャンルは幅広く扱っていますが、近時、未払いの残業代の問題などの労務問題が増えているので、そのような傾向を反映した形でのテーマのバラつきはあるかもしれません。
今日のテーマは、第三者の行為による労災についてです。
最高裁は、労災による自動車事故にあった労働者が示談によって損害賠償請求権を放棄した場合には、労災保険法12条の4にもとづく求償権が失われると判断しました。以下、判決文の引用です。
労働者が第三者の行為により災害をこうむつた場合にその第三者に対して取得する損害賠償請求権は、通常の不法行為上の債権であり、その災害につき労働者災害補償保険法による保険が付せられているからといつて、その性質を異にするものとは解されない。したがつて、他に別段の規定がないかぎり、被災労働者らは、私法自治の原則上、第三者が自己に対し負担する損害賠償債務の全部又は一部を免除する自由を有するものといわなければならない。
ところで、労働者災害補償保険法二〇条は、その一項において、政府は、補償の原因である事故が、第三者の行為によつて生じた場合に保険給付をしたときは、その給付の価額の限度で、補償を受けた者が第三者に対して有する損害賠償請求権を取得する旨を規定するとともに、その二項において、前項の場合において、補償を受けるべきものが、当該第三者より同一の事由につき損害賠償を受けたときは、政府は、その価額の限度で災害補償の義務を免れる旨を規定しており,右二項は、単に、被災労働者らが第三者から現実に損害賠償を受けた場合には、政府もまた、その限度において保険給付をする義務を免れる旨を明らかにしているに止まるが、労災保険制度は、もともと、被災労働者らのこうむつた損害を補償することを目的とするものであることにかんがみれば、被災労働者ら自らが、第三者の自己に対する損害賠償債務の全部又は一部を免除し、その限度において損害賠償請求権を喪失した場合においても、政府は、その限度において保険給付をする義務を免れるべきことは、規定をまつまでもない当然のことであつて、右二項の規定は、右の場合における政府の免責を否定する趣旨のものとは解されないのである。そして、補償を受けるべき者が、第三者から損害賠償を受け又は第三者の負担する損害賠償債務を免除したときは、その限度において損害賠償請求権は消滅するのであるから、政府がその後保険給付をしても、その請求権がなお存することを前提とする前示法条一項による法定代位権の発生する余地のないことは明らかである。補償を受けるべき者が、現実に損害賠償を受けないかぎり、政府は保険給付をする義務を免れず、したがつて、政府が保険給付をした場合に発生すべき右法定代位権を保全するため、補償を受けるべき者が第三者に対する損害賠償請求権をあらかじめ放棄しても、これをもつて政府に対抗しえないと論ずるがごときは、損害賠償請求権ならびに労災保険の性質を誤解したことに基づく本末顛倒の論というほかはない。
会社の方で、以上の点に不明なことがあれば、顧問弁護士にご相談ください。法律は絶えず改正が繰り返され、日々新たな裁判例・先例が積み重なっていきます。法の適用・運用のトレンドもその時々によって変わることがあります。そして、事例ごとに考慮しなければならないことが異なるため、一般論だけを押さえても、最善の問題解決に結びつかないことが多々あります(特にこのブログで紹介することの多い労務問題(残業代請求、サービス残業など)は、これらの傾向が顕著です)。そして、当ブログにおいて公開する情報は、対価を得ることなくメモ的な走り書きによりできあがっているため、(ある程度気をつけるようにしていますが)不完全な記述や誤植が含まれている可能性があり、また、書いた当時は最新の情報であっても現在では情報として古くなっている可能性もあります。実際にご自身で解決することが難しい法律問題に直面した場合には、一般的に得られる知識のみに基づいてご自身で判断してしまうのではなく、必ず専門家(顧問弁護士・法律顧問など)に個別にご相談いただくことを強くお勧めします。また、最近は、企業のコンプライアンスの重要性、すなわち、法律や規則などのごく基本的なルールに従って活動を行うことの重要性が高まっています。労働者から未払いの残業代を請求されるというサービス残業の問題を始め、企業にある日突然法律トラブルが生じることがあります。日頃からコンプライアンスを徹底するためにも、貴社顧問弁護士を検討することをお勧めします。
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