2010年6月4日金曜日

顧問弁護士(法律顧問)が扱うテーマ:業務上災害

このブログでは、企業の顧問弁護士をしている者の立場から、日々接している法律問題のうち、一般的な情報として役に立ちそうなものをメモしています。ジャンルは幅広く扱っていますが、近時、未払いの残業代の問題などの労務問題が増えているので、そのような傾向を反映した形でのテーマのバラつきはあるかもしれません。

今回は、業務上災害についてです。

業務上災害については、福岡高裁(労働者が出張先の宿泊所で夕食中に飲酒した後、階段から転落し、急性硬膜外血腫により死亡した事案)は、以下のとおり判断しました(以下判決文の引用です)。

「利光は、本件階段において、飲酒による酔いのために、注意力や動作の敏捷性が減退している状態のもとで、本件階段を降りようとして、足を踏み外すなどして転倒し、階段での転落事故に特有の、とっさに危険を回避する動作をすることの困難性も相まって、段鼻等に頭部を激突させるなどし、前記傷害を負うに至ったものと認められる。」
引き続き、以下のとおり判断しました。
「本件事故が発生した時点において、利光がなんらかの恣意的行為に及んでいたことを示す証拠はなく、前記認定の、午後九時五分頃、入浴に赴く梅崎に声をかけた際の状況や、本件事故後、利光の床を三方から囲むような位置関係で就寝していた他の三名を起こすような言動をすることもなく、床に入っていることなどの事実関係に照らすと、利光は本件事故当時、他の三名が寝入るのを待って自らも就寝すべく、暫時宿泊室の外で時間を過ごし、その間二階をぶらつき、トイレに行ったりなどした後、宿泊室に戻ろうとして、いったん本件階段を三階へと昇ったが、二階のトイレのサンダルを履いていることに気がついて、二階へ降りようとした際に、足を踏み外して転倒し、本件事故に至ったものと推測するのがほぼ事実に符号するのではないかと考えられ、本件事故は、利光が業務とまったく関連のない私的行為や恣意的行為ないしは業務遂行から逸脱した行為によって自ら招来した事故であるとして、業務起因性を否定すべき事実関係はないというべきである。
本件事故については、それが宿泊を伴う業務遂行に随伴ないし関連して発生したものであることが肯認されるところ、業務起因性を否定するに足る事実関係は存しないもので、利光の死亡は、労災法上の業務上の事由による死亡にあたる。」



会社の方で、以上の点に不明なことがあれば、顧問弁護士にご相談ください。法律というのは絶えず改正が繰り返され、日々新たな裁判例・先例が積み重なっていきます。法の適用・運用のトレンドもその時々によって変わることがあります。そして、事例ごとに考慮しなければならないことが異なるため、一般論だけを押さえても、最善の問題解決に結びつかないことが多々あります(特にこのブログで紹介することの多い労務問題(サービス残業ほか)は、これらの傾向が顕著です)。そして、当ブログにおいて公開する情報は、対価を得ることなくメモ的な走り書きによりできあがっているため、(ある程度気をつけるようにしていますが)不完全な記述や誤植が含まれている可能性があり、また、書いた当時は最新の情報であっても現在では情報として古くなっている可能性もあります。実際にご自身で解決することが難しい法律問題に直面した場合には、一般的に得られる知識のみに基づいてご自身で判断してしまうのではなく、必ず専門家(顧問弁護士・法律顧問など)に個別にご相談いただくことを強くお勧めします。