2010年12月6日月曜日
交通事故の裁判例紹介
2010年8月2日月曜日
顧問弁護士(法律顧問)が扱うテーマ:第三者の行為による労災
今日のテーマは、第三者の行為による労災についてです。
最高裁は、労災による自動車事故にあった労働者が示談によって損害賠償請求権を放棄した場合には、労災保険法12条の4にもとづく求償権が失われると判断しました。以下、判決文の引用です。
労働者が第三者の行為により災害をこうむつた場合にその第三者に対して取得する損害賠償請求権は、通常の不法行為上の債権であり、その災害につき労働者災害補償保険法による保険が付せられているからといつて、その性質を異にするものとは解されない。したがつて、他に別段の規定がないかぎり、被災労働者らは、私法自治の原則上、第三者が自己に対し負担する損害賠償債務の全部又は一部を免除する自由を有するものといわなければならない。
ところで、労働者災害補償保険法二〇条は、その一項において、政府は、補償の原因である事故が、第三者の行為によつて生じた場合に保険給付をしたときは、その給付の価額の限度で、補償を受けた者が第三者に対して有する損害賠償請求権を取得する旨を規定するとともに、その二項において、前項の場合において、補償を受けるべきものが、当該第三者より同一の事由につき損害賠償を受けたときは、政府は、その価額の限度で災害補償の義務を免れる旨を規定しており,右二項は、単に、被災労働者らが第三者から現実に損害賠償を受けた場合には、政府もまた、その限度において保険給付をする義務を免れる旨を明らかにしているに止まるが、労災保険制度は、もともと、被災労働者らのこうむつた損害を補償することを目的とするものであることにかんがみれば、被災労働者ら自らが、第三者の自己に対する損害賠償債務の全部又は一部を免除し、その限度において損害賠償請求権を喪失した場合においても、政府は、その限度において保険給付をする義務を免れるべきことは、規定をまつまでもない当然のことであつて、右二項の規定は、右の場合における政府の免責を否定する趣旨のものとは解されないのである。そして、補償を受けるべき者が、第三者から損害賠償を受け又は第三者の負担する損害賠償債務を免除したときは、その限度において損害賠償請求権は消滅するのであるから、政府がその後保険給付をしても、その請求権がなお存することを前提とする前示法条一項による法定代位権の発生する余地のないことは明らかである。補償を受けるべき者が、現実に損害賠償を受けないかぎり、政府は保険給付をする義務を免れず、したがつて、政府が保険給付をした場合に発生すべき右法定代位権を保全するため、補償を受けるべき者が第三者に対する損害賠償請求権をあらかじめ放棄しても、これをもつて政府に対抗しえないと論ずるがごときは、損害賠償請求権ならびに労災保険の性質を誤解したことに基づく本末顛倒の論というほかはない。
会社の方で、以上の点に不明なことがあれば、顧問弁護士にご相談ください。法律は絶えず改正が繰り返され、日々新たな裁判例・先例が積み重なっていきます。法の適用・運用のトレンドもその時々によって変わることがあります。そして、事例ごとに考慮しなければならないことが異なるため、一般論だけを押さえても、最善の問題解決に結びつかないことが多々あります(特にこのブログで紹介することの多い労務問題(残業代請求、サービス残業など)は、これらの傾向が顕著です)。そして、当ブログにおいて公開する情報は、対価を得ることなくメモ的な走り書きによりできあがっているため、(ある程度気をつけるようにしていますが)不完全な記述や誤植が含まれている可能性があり、また、書いた当時は最新の情報であっても現在では情報として古くなっている可能性もあります。実際にご自身で解決することが難しい法律問題に直面した場合には、一般的に得られる知識のみに基づいてご自身で判断してしまうのではなく、必ず専門家(顧問弁護士・法律顧問など)に個別にご相談いただくことを強くお勧めします。また、最近は、企業のコンプライアンスの重要性、すなわち、法律や規則などのごく基本的なルールに従って活動を行うことの重要性が高まっています。労働者から未払いの残業代を請求されるというサービス残業の問題を始め、企業にある日突然法律トラブルが生じることがあります。日頃からコンプライアンスを徹底するためにも、貴社顧問弁護士を検討することをお勧めします。
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2010年7月30日金曜日
瑕疵担保責任としての損害賠償請求権の消滅時効の期間
今日は、瑕疵担保責任としての損害賠償請求権の消滅時効期間についての最高裁の判例を紹介します(以下、判決文の引用)。
買主の売主に対する瑕疵担保による損害賠償請求権は,売買契約に基づき法律上生ずる金銭支払請求権であって,これが民法167条1項にいう「債権」に当たることは明らかである。この損害賠償請求権については,買主が事実を知った日から1年という除斥期間の定めがあるが(同法570条,566条3項),これは法律関係の早期安定のために買主が権利を行使すべき期間を特に限定したものであるから,この除斥期間の定めがあることをもって,瑕疵担保による損害賠償請求権につき同法167条1項の適用が排除されると解することはできない。さらに,買主が売買の目的物の引渡しを受けた後であれば,遅くとも通常の消滅時効期間の満了までの間に瑕疵を発見して損害賠償請求権を行使することを買主に期待しても不合理でないと解されるのに対し,瑕疵担保による損害賠償請求権に消滅時効の規定の適用がないとすると,買主が瑕疵に気付かない限り,買主の権利が永久に存続することになるが,これは売主に過大な負担を課するものであって,適当といえない。
したがって,瑕疵担保による損害賠償請求権には消滅時効の規定の適用があり,この消滅時効は,買主が売買の目的物の引渡しを受けた時から進行すると解するのが相当である。
会社の方で、以上の点に不明なことがあれば、御社顧問弁護士にご相談ください。なお、法律というのは絶えず改正が繰り返され、日々新たな裁判例・先例が積み重なっていきます。法の適用・運用のトレンドもその時々によって変わることがあります。そして、事例ごとに考慮しなければならないことが異なるため、一般論だけを押さえても、最善の問題解決に結びつかないことが多々あります(特にこのブログで紹介することの多い労務問題(残業代請求、サービス残業など)は、これらの傾向が顕著です)。そして、当ブログにおいて公開する情報は、対価を得ることなくメモ的な走り書きによりできあがっているため、(ある程度気をつけるようにしていますが)不完全な記述や誤植が含まれている可能性があり、また、書いた当時は最新の情報であっても現在では情報として古くなっている可能性もあります。実際にご自身で解決することが難しい法律問題に直面した場合には、一般的に得られる知識のみに基づいてご自身で判断してしまうのではなく、必ず専門家(顧問弁護士・法律顧問など)に個別にご相談いただくことを強くお勧めします。また、最近は、企業のコンプライアンスの重要性、すなわち、法律や規則などのごく基本的なルールに従って活動を行うことの重要性が高まっています。労働者から未払いの残業代を請求されるというサービス残業の問題を始め、企業にある日突然法律トラブルが生じることがあります。日頃からコンプライアンスを徹底するためにも、顧問弁護士を検討することをお勧めします。
2010年6月4日金曜日
顧問弁護士(法律顧問)が扱うテーマ:業務上災害
今回は、業務上災害についてです。
業務上災害については、福岡高裁(労働者が出張先の宿泊所で夕食中に飲酒した後、階段から転落し、急性硬膜外血腫により死亡した事案)は、以下のとおり判断しました(以下判決文の引用です)。
「利光は、本件階段において、飲酒による酔いのために、注意力や動作の敏捷性が減退している状態のもとで、本件階段を降りようとして、足を踏み外すなどして転倒し、階段での転落事故に特有の、とっさに危険を回避する動作をすることの困難性も相まって、段鼻等に頭部を激突させるなどし、前記傷害を負うに至ったものと認められる。」
引き続き、以下のとおり判断しました。
「本件事故が発生した時点において、利光がなんらかの恣意的行為に及んでいたことを示す証拠はなく、前記認定の、午後九時五分頃、入浴に赴く梅崎に声をかけた際の状況や、本件事故後、利光の床を三方から囲むような位置関係で就寝していた他の三名を起こすような言動をすることもなく、床に入っていることなどの事実関係に照らすと、利光は本件事故当時、他の三名が寝入るのを待って自らも就寝すべく、暫時宿泊室の外で時間を過ごし、その間二階をぶらつき、トイレに行ったりなどした後、宿泊室に戻ろうとして、いったん本件階段を三階へと昇ったが、二階のトイレのサンダルを履いていることに気がついて、二階へ降りようとした際に、足を踏み外して転倒し、本件事故に至ったものと推測するのがほぼ事実に符号するのではないかと考えられ、本件事故は、利光が業務とまったく関連のない私的行為や恣意的行為ないしは業務遂行から逸脱した行為によって自ら招来した事故であるとして、業務起因性を否定すべき事実関係はないというべきである。
本件事故については、それが宿泊を伴う業務遂行に随伴ないし関連して発生したものであることが肯認されるところ、業務起因性を否定するに足る事実関係は存しないもので、利光の死亡は、労災法上の業務上の事由による死亡にあたる。」
会社の方で、以上の点に不明なことがあれば、顧問弁護士にご相談ください。法律というのは絶えず改正が繰り返され、日々新たな裁判例・先例が積み重なっていきます。法の適用・運用のトレンドもその時々によって変わることがあります。そして、事例ごとに考慮しなければならないことが異なるため、一般論だけを押さえても、最善の問題解決に結びつかないことが多々あります(特にこのブログで紹介することの多い労務問題(サービス残業ほか)は、これらの傾向が顕著です)。そして、当ブログにおいて公開する情報は、対価を得ることなくメモ的な走り書きによりできあがっているため、(ある程度気をつけるようにしていますが)不完全な記述や誤植が含まれている可能性があり、また、書いた当時は最新の情報であっても現在では情報として古くなっている可能性もあります。実際にご自身で解決することが難しい法律問題に直面した場合には、一般的に得られる知識のみに基づいてご自身で判断してしまうのではなく、必ず専門家(顧問弁護士・法律顧問など)に個別にご相談いただくことを強くお勧めします。
2010年5月19日水曜日
労務問題(残業代請求など)の基礎:セクハラ(続き)
今日のテーマは、セクシャルハラスメント(セクハラ)その2です。
事業主は、職場におけるセクシュアルハラスメントを防止するため、雇用管理上次の措置を講じなければなりません。
(1) 事業主の方針の明確化及びその周知・啓発
以下は、適切な措置がなされている例として紹介されているものです。
① 就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書において、職場におけるセクシュアルハラスメントがあってはならない旨の方針を規定し、職場におけるセクシュアルハラスメントの内容と併せ、労働者に周知・啓発すること。
② 社内報、パンフレット、社内ホームページ等広報又は啓発のための資料等に職場におけるセクシュアルハラスメントの内容及び職場におけるセクシュアルハラスメントがあってはならない旨の方針を記載し、配布等すること。
③ 職場におけるセクシュアルハラスメントの内容及び職場におけるセクシュアルハラスメントがあってはならない旨の方針を労働者に対して周知・啓発するための研修、講習等を実施すること。
④ 就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書において、職場におけるセクシュアルハラスメントに係る性的な言動を行った者に対する懲戒規定を定め、その内容を労働者に周知・啓発すること。
⑤ 職場におけるセクシュアルハラスメントに係る性的な言動を行った者は、現行の就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書において定められている懲戒規定の適用の対象となる旨を明確化し、これを労働者に周知・啓発すること。
(2) 相談(苦情を含む。以下同じ。)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
以下は、適切な措置がなされている例として紹介されているものです。
① 相談窓口の担当者が相談を受けた場合、その内容や状況に応じて、相談窓口の担当者と人事部門とが連携を図ることができる仕組みとすること。
② 相談窓口の担当者が相談を受けた場合、あらかじめ作成した留意点などを記載したマニュアルに基づき対応すること。
(3) 職場におけるセクシュアルハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応
以下は、適切な措置がなされている例として紹介されているものです。
① 相談窓口の担当者、人事部門又は専門の委員会等が、相談を行った労働者(以下「相談者」という。)及び職場におけるセクシュアルハラスメントに係る性的な言動の行為者とされる者(以下「行為者」という。)の双方から事実関係を確認すること。また、相談者と行為者との間で事実関係に関する主張に不一致があり、事実の確認が十分にできないと認められる場合には、第三者からも事実関係を聴取する等の措置を講ずること。
② 事実関係を迅速かつ正確に確認しようとしたが、確認が困難な場合などにおいて、法第18条に基づく調停の申請を行うことその他中立な第三者機関に紛争処理を委ねること。
③ 就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書における職場におけるセクシュアルハラスメントに関する規定等に基づき、行為者に対して必要な懲戒その他の措置を講ずること。併せて事案の内容や状況に応じ、被害者と行為者の間の関係改善に向けての援助、被害者と行為者を引き離すための配置転換、行為者の謝罪、被害者の労働条件上の不利益の回復等の措置を講ずること。
④ 法第18条に基づく調停その他中立な第三者機関の紛争解決案に従った措置を講ずること。
⑤ 職場におけるセクシュアルハラスメントがあってはならない旨の方針及び職場におけるセクシュアルハラスメントに係る性的な言動を行った者について厳正に対処する旨の方針を、社内報、パンフレット、社内ホームページ等広報又は啓発のための資料等に改めて掲載し、配布等すること。
⑥ 労働者に対して職場におけるセクシュアルハラスメントに関する意識を啓発するための研修、講習等を改めて実施すること。
(4) (1)から(3)までの措置と併せて講ずべき措置
以下は、適切な措置がなされている例として紹介されているものです。
① 相談者・行為者等のプライバシーの保護のために必要な事項をあらかじめマニュアルに定め、相談窓口の担当者が相談を受けた際には、当該マニュアルに基づき対応するものとすること。
② 相談者・行為者等のプライバシーの保護のために、相談窓口の担当者に必要な研修を行うこと。
③ 相談窓口においては相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じていることを、社内報、パンフレット、社内ホームページ等広報又は啓発のための資料等に掲載し、配布等すること。
④ 就業規則その他の職場における職務規律等を定めた文書において、労働者が職場におけるセクシュアルハラスメントに関し相談をしたこと、又は事実関係の確認に協力したこと等を理由として、当該労働者が解雇等の不利益な取扱いをされない旨を規定し、労働者に周知・啓発をすること。
⑤ 社内報、パンフレット、社内ホームページ等広報又は啓発のための資料等に、労働者が職場におけるセクシュアルハラスメントに関し相談をしたこと、又は事実関係の確認に協力したこと等を理由として、当該労働者が解雇等の不利益な取扱いをされない旨を記載し、労働者に配布等すること。
以上について、ご不明な点は、顧問弁護士にご相談ください。最近は、企業のコンプライアンスの重要性、すなわち、法律や規則などのごく基本的なルールに従って活動を行うことの重要性が高まっています。労働者から未払いの残業代を請求されるというサービス残業の問題を始め、企業にある日突然法律トラブルが生じることがあります。日頃からコンプライアンスを徹底するためにも、顧問弁護士を検討することをお勧めします。
2010年4月14日水曜日
顧問弁護士(法律顧問)に多い質問:持株会
このブログでは、企業の顧問弁護士をしている者の立場から、日々接している法律問題のうち、一般的な情報として役に立ちそうなものをメモしています。ジャンルは幅広く扱っていますが、近時、未払いの残業代の問題などの労務問題が増えているので、そのような傾向を反映した形でのテーマのバラつきはあるかもしれません。
今回は、従業員などの持株会についてです。
1.持株会について
ありていにいいますと、持株会というのは、ある会社の株式を取得・保有する、従業員や役員、取引先等の組織です。つまり、従業員持ち株会、役員持株会、取引先持株会等があるとされています。
持株会のメリットとしては、従業員の資産形成に役立ち、士気高場、経営への参画意識を高められること、経営者の相続税対策、あるいは事業承継の際に有効であること、上場の際、従業員の株価の上昇が見込め、安定株主になること、などが一般的に挙げられます。
他方、持株会のデメリットとしては、持株会の設立と運営に手間・費用がかかること、会社の業績が悪くなった場合に配当や株価に関する従業員等の不満が出やすいこと、条件によっては、株式の売買や換金の際に申し出をすることが困難であること、などが挙げられます。
2. 持株会の法的性格
持ち株会の法的性格については、一般的には次のような種類があるといわれています。
(1) 民法上の組合
従業員持株会の多くが「民法上の組合」といわれています。税法上も法人税としての課税はなく、従業員個人の配当所得として課税されます。
(2) 法人格なき社団
税法上はみなし法人として法人税が課されます。
(3) 任意団体
信託銀行が社員持株信託として設立される場合の任意団体としての持株会が考えられます。
以上につき、ご不明な点は貴社の顧問弁護士にお尋ねください。最近は、企業のコンプライアンスの重要性、すなわち、法律や規則などのごく基本的なルールに従って活動を行うことの重要性が高まっています。労働者から未払いの残業代を請求されるというサービス残業の問題を始め、企業にある日突然法律トラブルが生じることがあります。日頃からコンプライアンスを徹底するためにも、顧問弁護士を検討することをお勧めします。
2010年3月19日金曜日
労務問題(残業代請求など)の基礎:セクハラ
このブログでは、企業の顧問弁護士をしている者の立場から、日々接している法律問題のうち、一般的な情報として役に立ちそうなものをメモしています。ジャンルは幅広く扱っていますが、近時、未払いの残業代の問題などの労務問題が増えているので、そのような傾向を反映した形でのテーマのバラつきはあるかもしれません。
今日のテーマは、セクシャルハラスメント(セクハラ)その1です。
労働契約法5条は、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」と規定し、労働安全衛生法3条1項は、「事業者は、単にこの法律で定める労働災害の防止のための最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない。」と規定しています。よって、使用者には、適正良好な職場環境を保持する義務があります。
そこで判例上、セクシャルハラスメントへの配慮義務が認められてきました。
さらに、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(男女雇用機会均等法)11条1項は、「事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。」と規定しています。
そして、「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」(平成18年厚生労働省告示第615号)は、上記の措置について詳細に定めています。
この指針によると、職場におけるセクシュアルハラスメントには、職場において行われる性的な言動に対する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受けるもの(対価型セクシュアルハラスメント)と、当該性的な言動により労働者の就業環境が害されるもの(環境型セクシュアルハラスメント)があります。
「対価型セクシュアルハラスメント」とは、職場において行われる労働者の意に反する性的な言動に対する労働者の対応により、当該労働者が解雇、降格、減給等の不利益を受けることであって、その状況は多様であるが、典型的な例として、次のようなものがあります。
・事務所内において事業主が労働者に対して性的な関係を要求したが、拒否されたため、当該労働者を解雇すること。
・出張中の車中において上司が労働者の腰、胸等に触ったが、抵抗されたため、当該労働者について不利益な配置転換をすること。
・営業所内において事業主が日頃から労働者に係る性的な事柄について公然と発言していたが、抗議されたため、当該労働者を降格すること。
「環境型セクシュアルハラスメント」とは、職場において行われる労働者の意に反する性的な言動により労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることであって、その状況は多様であるが、典型的な例として、次のようなものがあります。
・事務所内において上司が労働者の腰、胸等に度々触ったため、当該労働者が苦痛に感じてその就業意欲が低下していること。
・同僚が取引先において労働者に係る性的な内容の情報を意図的かつ継続的に流布したため、当該労働者が苦痛に感じて仕事が手につかないこと。
・労働者が抗議をしているにもかかわらず、事務所内にヌードポスターを掲示しているため、当該労働者が苦痛に感じて業務に専念できないこと。
次回は、事業主が、職場におけるセクシュアルハラスメントを防止するため、雇用管理上講じなければならない措置についてまとめます。
以上について、ご不明な点は、御社の顧問弁護士にご相談ください。 最近は、企業のコンプライアンスの重要性、すなわち、法律や規則などのごく基本的なルールに従って活動を行うことの重要性が高まっています。労働者から未払いの残業代を請求されるというサービス残業の問題を始め、企業にある日突然法律トラブルが生じることがあります。日頃からコンプライアンスを徹底するためにも、顧問弁護士を検討することをお勧めします。
2010年2月3日水曜日
顧問弁護士・法律顧問に多い質問・・定期建物賃貸借
今日は、定期借家制度の概要についてです。
<定期建物賃貸借とは>
従来型の賃貸借契約は、「正当事由」がある場合でなければ、賃貸人(貸主)から契約の更新拒絶や解約の申し入れができないこととされてきました。これに対し、契約で定めた期間が満了することにより、更新されることなく、確定的に賃貸借が終了する建物賃貸借のことを定期建物賃貸借といいます。なお、契約終了後も賃借人(借主)が居住し続け、賃貸人がこれに異議を述べないような場合であっても、契約関係は確定的に終了することとなります。
<定期建物賃貸借契約の締結>
定期建物賃貸借は、内容的な要件としては期間を確定的に定めることがまず第一に必要です。この制度では、借地借家法第29条に定める1年未満の建物賃貸借を期間の定めのないものとみなす規定は適用されないこととされており、1年未満でもよいこととなっています。
定期建物賃貸借は、改正後の借地借家法第38条に規定されていますが、形式上の要件として、「公正証書による等書面によって契約する」ときに限って、定めることができるものとされています。(法第38条第1項)
この場合、貸主は借主に対して、契約の更新はなく、期間の満了とともに契約が終了することを、契約書とは別にあらかじめ書面を交付して説明しなければなりません(法第38条第2項)。
貸主がこの説明を怠ったときは、その契約は定期借家としての効力は否定され、従来型の、契約の更新のある借家契約となります。
<定期建物賃貸借契約の終了>
定期建物賃貸借契約においては、契約期間が1年以上の場合は、貸主は期間満了の1年前から6か月前までの間(「通知期間」といわれています。)に、借り主に契約が終了することを通知する必要があります。
なお、期間満了前に、引き続きその建物を使用することについて当事者双方が合意すれば、再契約したうえで、引き続きその建物を使用することは可能です。
<契約の中途解約>
居住用建物の定期建物賃貸借契約では、契約期間中に、借主にやむを得ない事情(転勤、療養、親族の介護など)が発生し、その住宅に住み続けることが困難となった場合には、借主から解約の申し入れができることとなっています(法第38条第5項)。この場合、解約の申し入れの日から1月経過すれば、契約が終了します。なお、この解約権が行使できるのは、床面積が200平方メートル未満の住宅に居住している借主に限られます。
<借賃の改定の特約>
定期建物賃貸借契約では、賃料の改訂に関し特約をすれば、家賃増減請求権の適用はないものとされています。
以下、参照条文です。
(定期建物賃貸借)
第三十八条 期間の定めがある建物の賃貸借をする場合においては、公正証書による等書面によって契約をするときに限り、第三十条の規定にかかわらず、契約の更新がないこととする旨を定めることができる。この場合には、第二十九条第一項の規定を適用しない。
2 前項の規定による建物の賃貸借をしようとするときは、建物の賃貸人は、あらかじめ、建物の賃借人に対し、同項の規定による建物の賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により当該建物の賃貸借は終了することについて、その旨を記載した書面を交付して説明しなければならない。
3 建物の賃貸人が前項の規定による説明をしなかったときは、契約の更新がないこととする旨の定めは、無効とする。
4 第一項の規定による建物の賃貸借において、期間が一年以上である場合には、建物の賃貸人は、期間の満了の一年前から六月前までの間(以下この項において「通知期間」という。)に建物の賃借人に対し期間の満了により建物の賃貸借が終了する旨の通知をしなければ、その終了を建物の賃借人に対抗することができない。ただし、建物の賃貸人が通知期間の経過後建物の賃借人に対しその旨の通知をした場合においては、その通知の日から六月を経過した後は、この限りでない。
5 第一項の規定による居住の用に供する建物の賃貸借(床面積(建物の一部分を賃貸借の目的とする場合にあっては、当該一部分の床面積)が二百平方メートル未満の建物に係るものに限る。)において、転勤、療養、親族の介護その他のやむを得ない事情により、建物の賃借人が建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となったときは、建物の賃借人は、建物の賃貸借の解約の申入れをすることができる。この場合においては、建物の賃貸借は、解約の申入れの日から一月を経過することによって終了する。
6 前二項の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものは、無効とする。
7 第三十二条の規定は、第一項の規定による建物の賃貸借において、借賃の改定に係る特約がある場合には、適用しない。
これらについて、ご不明な点がありましたら、貴社の顧問弁護士(法律顧問)にお問い合わせください。なお、法律というのは絶えず改正が繰り返され、日々新たな裁判例・先例が積み重なっていきます。法の適用・運用のトレンドもその時々によって変わることがあります。そして、事例ごとに考慮しなければならないことが異なるため、一般論だけを押さえても、最善の問題解決に結びつかないことが多々あります(特にこのブログで紹介することの多い労務問題(残業代の不払いの問題、サービス残業など)は、これらの傾向が顕著です)。そして、当ブログにおいて公開する情報は、対価を得ることなくメモ的な走り書きによりできあがっているため、(ある程度気をつけるようにしていますが)不完全な記述や誤植が含まれている可能性があり、また、書いた当時は最新の情報であっても現在では情報として古くなっている可能性もあります。最近は、企業のコンプライアンスの重要性、すなわち、法律や規則などのごく基本的なルールに従って活動を行うことの重要性が高まっています。労働者から未払いの残業代を請求されるというサービス残業の問題を始め、企業にある日突然法律トラブルが生じることがあります。日頃からコンプライアンスを徹底するためにも、顧問弁護士を検討することをお勧めします。実際にご自身で解決することが難しい法律問題に直面した場合には、一般的に得られる知識のみに基づいてご自身で判断してしまうのではなく、必ず専門家(顧問弁護士・法律顧問など)に個別にご相談いただくことを強くお勧めします。
2010年1月26日火曜日
顧問弁護士への問い合わせが多いテーマ:公益通報者保護法
今日は、公益通報者保護法に関する民間事業者向けガイドラインの内容を紹介します。
1.本ガイドラインの目的と性格
本ガイドラインは、公益通報者保護法を踏まえて、事業者のコンプライアンス経営への取り組みを強化するために、労働者からの法令違反等に関する通報を事業者内において適切に処理するための指針を示すものである。
2.事業者内での通報処理の仕組みの整備
(仕組みの整備)
○ 通報の受付から調査、是正措置の実施及び再発防止策の策定までを適切に行うため、経営幹部を責任者とし、部署間横断的に通報を処理する仕組みを整備するとともに、これを適切に運用することが必要である。
(通報窓口の整備)
○ 通報窓口及び受付の方法を明確に定め、それらを労働者等に対し、十分に周知することが必要である。
○ 新たに通報窓口を設置する場合、法律事務所等に委託する(中小企業の場合、何社かが共同して委託することも考えられる。)など、事業者の外部に設置すること、労働組合を通報窓口として指定すること又はグループ企業ではグループ共通の一元的な窓口を設置することなども可能である。また、対象としている通報内容や通報者の範囲、個人情報の保護の程度等を確認の上、必要に応じ、既存の通報窓口を充実させて活用することも可能である。
(相談窓口の設置)
○ 各事業者の通報処理の仕組みに関する質問等に対応する相談窓口を設置することが必要である。相談窓口は事業者の実情に応じて、通報窓口と一元化して設置することも可能である。
(内部規程の整備)
○ 内部規程に通報処理の仕組みについて明記し、特に、公益通報者に対する解雇や不利益取扱いの禁止を明記することが必要である。
(秘密保持の徹底)
○ 情報を共有する範囲を限定すること、知り得た情報を口外しないこと等を各担当者に徹底させることが必要である。
(利益相反関係の排除)
○ 受付担当者、調査担当者その他通報処理に従事する者は、自らが関係する通報事案の処理に関与してはならない。
3.通報の受付
(通報受領の通知)
○ 書面や電子メール等、通報者が通報の到達を確認できない方法によって通報がなされた場合には、速やかに通報者に対し、通報を受領した旨を通知することが望ましい。
(通報内容の検討)
○ 通報を受け付けた場合、調査が必要であるか否かについて、公正、公平かつ誠実に検討し、今後の対応について、通報者に通知するよう努めることが必要である。
(個人情報の保護)
○ 通報の受付方法としては、電話、FAX、電子メール等様々な手段が考えられるが、通報を受け付ける際には、専用回線を設ける、個室で面談するなど、通報者の秘密を守ることが必要である。
4.調査の実施
(調査と個人情報の保護)
○ 調査の実施に当たっては、通報者の秘密を守るため、通報者が特定されないよう調査の方法に十分に配慮することが必要である。
(通知)
○ 調査中は、調査の進捗状況について適宜、被通報者(その者が法令違反等を行った、行っている又は行おうとしていると通報された者をいう。)や当該調査に協力した者等の信用、名誉及びプライバシー等に配慮しつつ、通報者に通知するとともに、調査結果は、可及的速やかに取りまとめ、通報者に対し、その結果を通知するよう努めることが必要である。
5.是正措置の実施
(是正措置と報告)
○ 調査の結果、法令違反等が明らかになった場合には、速やかに是正措置及び再発防止策を講じるとともに、必要に応じ、関係者の社内処分など適切に対応することが必要である。また、さらに必要があれば、関係行政機関への報告等を行うことが必要である。
(通知)
○ 是正措置完了後、被通報者や当該調査に協力した者等の信用、名誉及びプライバシー等に配慮しつつ、速やかに通報者に対し、是正結果を通知するよう努めることが必要である。
6.解雇・不利益取扱いの禁止
(解雇・不利益取扱いの禁止)
○ 公益通報をしたことを理由として通報者に対し、解雇・不利益取扱い(懲戒処分、降格、減給等)をしてはならない。
7.フォローアップ
(フォローアップ)
○ 事業者は、通報処理終了後、法令違反等が再発していないか、是正措置及び再発防止策が十分に機能しているかを確認するとともに、必要に応じ、通報処理の仕組みを改善すること、新たな是正措置及び再発防止策を講じることが必要である。また、通報者に対し、通報したことを理由とした不利益取扱いや職場内で嫌がらせが行われたりしていないか等を確認するなど、通報者保護に係る十分なフォローアップを行うことが必要である。
8.その他
(仕組みの周知等)
○ 通報処理の仕組みやコンプライアンス(法令遵守)の重要性について、社内通達、社内報、電子メール等での広報の実施、定期的な研修の実施、説明会の開催等により、労働者、管理者等に対し、十分に周知することが必要である。特に、通報処理を行う担当者に対しては、十分な研修等を行うことが必要である。また、職場の管理者等(通報者等の直接又は間接の上司など)に相談や通報が行われた場合に適正に処理されるような透明性の高い職場環境を形成することも重要である。
会社の方で、以上の点に不明なことがあれば、顧問弁護士にご相談ください。 個人の方で、以上の点につき相談したいことがあれば、弁護士にご相談ください。 なお、法律というのは絶えず改正が繰り返され、日々新たな裁判例・先例が積み重なっていきます。法の適用・運用のトレンドもその時々によって変わることがあります。そして、事例ごとに考慮しなければならないことが異なるため、一般論だけを押さえても、最善の問題解決に結びつかないことが多々あります(特にこのブログで紹介することの多い労務問題(残業代請求、サービス残業など)は、これらの傾向が顕著です)。そして、当ブログにおいて公開する情報は、対価を得ることなくメモ的な走り書きによりできあがっているため、(ある程度気をつけるようにしていますが)不完全な記述や誤植が含まれている可能性があり、また、書いた当時は最新の情報であっても現在では情報として古くなっている可能性もあります。実際にご自身で解決することが難しい法律問題に直面した場合には、一般的に得られる知識のみに基づいてご自身で判断してしまうのではなく、必ず専門家(顧問弁護士など)に個別にご相談いただくことを強くお勧めします。