2009年6月2日火曜日

残業代請求

3 争点2、4について
(1)被告は、原告について、被告に雇用されていた全期間、専門型裁量労働制(労基法38条の3)の適用があった旨主張する。確かに、上記前提事実(1)イで記載したとおり原告の業務は専門型裁量労働制で予定されている対象業務(労基法38条の3)に該当するところ、被告は、原告との雇用契約の中で原告の労働について裁量労働制に係る合意をし、また、被告の契約社員・嘱託規定及び従業員に係る就業規則にも専門型裁量労働制に係る規定が設定されている。そして、被告は、本件裁量労働協定を締結し、それを中央労働基準監督署に届出ている。
(2)ところで、専門型裁量労働制について、労基法38条の3第1項は事業場の過半数組織労働組合ないし過半数代表者の同意(協定)を必要とすることで当該専門型裁量労働制の内容の妥当性を担保しているところ、当事者間で定めた専門型裁量労働制に係る合意が効力を有するためには、同協定が要件とされた趣旨からして少なくとも、使用者が当該事業場の過半数組織労働組合ないし過半数代表者との間での専門型裁量労働制に係る書面による協定を締結しなければならないと解するのが相当である。また、それを行政官庁に届けなければならない(労基法38条の3第2項、同法38条3項)。
 同条項の規定からすると、同適用の単位は事業場毎とされていることは明らかである。そこで、ここでいう事業場とは「工場、事務所、店舗等のように一定の場所において、相関連する組織の基で業として継続的に行われる作業の一体が行われている場」と解するのが相当である。
 被告の大阪開発部は、上記第3の1(5)で認定したその組織、場所からすると、被告の本社(本件裁量労働協定及び同協定を届出た労働基準監督署に対応する事業場)とは別個の事業所というべきであるところ、本件裁量労働協定は被告の本社の労働者の過半数の代表者と締結されたもので、また、その届出も本社に対応する中央労働基準監督署に届けられたものであって、大阪開発部を単位として専門型裁量労働制に関する協定された労働協定はなく、また、同開発部に対応する労働基準監督署に同協定が届出られたこともない。そうすると、本件裁量労働協定は効力を有しないとするのが相当であって、それに相反する被告の主張は理由がない。
(3)そうすると、原告に対しては裁量労働制の適用がない。したがって、被告は、原告に時間外労働(残業)や休日労働があれば、それに応じた賃金を原告に支払うべき義務を負っているというべきである。
(4)そこで、原告の平成15年9月1日から平成16年6月30日までの労働時間であるが、同年1月1日から同年6月30日までの原告の出退社時間は上記第2の2(2)で記載したとおり別紙「労働時間表」中、同期間に対応する期間に係る記載の出社、退社欄記載のとおりであり、平成15年9月1日から同年12月末日までのそれは証拠(〈証拠略〉)及び弁論の全趣旨により同労働時間表中、同期間に対応する期間に係る記載の出退社時間欄記載のとおりであることが認められ、同認定に反する証拠はない。
 同認定した原告の出退社時間に被告の就業規則などで定められている所定労働時間8時間、休憩時間1時間を踏まえると、原告の平成15年9月1日から平成16年6月30日までの実労働時間及び時間外労働(残業)時間、深夜労働(残業)時間は労働時間表の勤務時間欄、時間外欄及び深夜欄記載のとおりであることが推認され、同認定を覆すに足りる証拠はない。
 ところで、被告は、原告が深夜労働(残業)の申告承認の手続きをとっていなかったため、同人の深夜労働(残業)に係る割増賃金(残業代)支払義務を負っていない旨主張する。しかし、被告は、被告のタイムカードの記載から原告が深夜に労働をしていたことを認識することができ、実際にも原告が上記認定した範囲で深夜労働(残業)をしていたことからすると、上記手続の成否は深夜労働(残業)に係る割増賃金(残業代)請求権の成否に影響を与えないものというべきである。そうすると、被告の上記主張は理由がない。
(5)原告の上記認定した時間外、深夜に係る労働時間を踏まえて、原告に支払われるべき時間外、深夜の割増賃金(残業代)額を計算する(但し、平成15年9月分から同年11月分を除く。)。
ア 1時間当たりの労働単価
22万4000円×12月分÷244日(年間所定勤務時間)÷8=1377.049円
イ(ア)平成15年12月分 7万4931円
時間外労働時間(残業時間)43時間32分(2612分)
1377円×2612分×1.25÷60分=7万4931円
(イ)平成16年1月分 8万9591円
時間外労働時間(残業時間)52時間03分(3123分)
1377円×3123分×1.25÷60分=8万9591円
(ウ)平成16年2月分 6万4460円
時間外労働時間(残業時間)37時間27分(2247分)
1377円×2247分×1.25÷60分=6万4460円
(エ)平成16年3月分 7万9837円
時間外労働時間(残業時間)45時間38分(2738分)
1377円×2783分×1.25÷60分=7万9837円
(オ)平成16年4月分(但し、3、4日分を除く) 10万5369円
時間外労働時間(残業時間)61時間13分(3673分)
1377円×3673分×1.25÷60分=10万5369円
(カ)平成16年5月分(1日ないし4日分、8、9日分、15、16日分を除く) 1万5417円
時間外労働(残業時間)時間8時間48分(528分)
1377円×528分×1.25÷60分=1万5417円
(キ)平成16年6月分 2万4699円
時間外労働(残業時間)時間14時間21分(861分)
1377円×861分×1.25÷60分=2万4699円
ウ 上記(ア)ないし(キ)の合計額 45万4304円